『本田にパスの36%を集中せよ ザックJAPAN vs. 岡田ジャパンのデータ解析』森本美行

もっと面白い話出来るんじゃない?というのが読後の印象。
価格分の価値は充分あるのだけど、惜しい。

本田にパスの36%を集中せよ―ザックJAPANvs.岡田ジャパンのデータ解析 (文春新書)
単行本: 216ページ
出版社: 文藝春秋 (2011/06)
ISBN-10: 4166608134
ISBN-13: 978-4166608133
発売日: 2011/06



TVでサッカー中継を見ていると、ボール支配率(ポゼッション)や選手毎の走行距離の紹介が挟まれる。
バルセロナが73%のポゼッション、レアル・マドリーが27%。シャビの一試合ごとの平均走行距離は約12kmです。のように。

これが何を意味してどんなことが読み取れるのかを考えたことがある人は意外と少ないのではないか。
わーバルサすげーなー白いところはざまーねーなー。シャビもよく走るわ。くらいなもんでしょう。
それはそれで良いです。数字追うよりメッシを追いかけた方が面白い。
ただ、計測された多様なデータを用いたこんな見方もあるよと紹介してくれるのがこの本だ。

じゃあ、この73%ってどうやって出したんでしょう。味方がボールを持つ時間÷90分(若しくは経過試合時間)?
いやいやそこまで単純じゃ無い。
反則やスローインでボールが止まっている場合。所謂中立状態の時間は引きます。
ボール保持時間÷(90分ー中立時間)=ポゼッション率 となるわけです。
中立の時間というのは結構多くて、一試合の3分の1程度、約30分を占める。
ポゼッション率が50:50の拮抗した場合、大雑把に言えば、
30分をAチーム、30分をBチームがそれぞれボール保持し、30分は中立の状態にある。

この「90分ー中立時間」というのがサッカー一試合における実動時間となる。
これをアクチュアルタイムと呼ぶ。
ロスタイム(今はアディショナルタイム)は日本語に定着したが、アクチュアルタイムはほとんど知られていない。
だが、アクチュアルタイムに注目するだけで、サッカーの見方に大きな、新しい指標を手に入れることが出来る。

例えば、あるチームが75分過ぎ位にスタミナ切れを起こし足が止まり、いいようにやられる試合があったとする。
でも次の試合では90分を通して適度に走り回り、最後まで上手く試合を運ぶことが出来た。
同じチームなのに何故だろうと。

普通に見れば、相手の強さ、プレースタイル、選手のコンディション、気象条件の変動が大きな要因と推測するだろう。
だが、もしかするとアクチュアルタイムが大きく異なっていた可能性がある。
つまり、スタミナ切れを起こした試合のアクチュアルタイムが60分で、起こさなかった試合のアクチュアルタイムが50分だったかもしれない。
このチームは50分なら走れても、60分走りきる体力は無かったと言うことだ。

南アフリカワールドカップでの日本代表の戦い振りは記憶に新しいところだけど、というかもうオランダ戦の熱狂とかはやばかったですよね。
強豪相手の試合運びはスペクタクルとは違うけれど、戦いとはかくいうモノぞという圧縮した熱に満ちていた。
ワールドカップでのアクチュアルタイムを含めた各種データが掲載されている。
データを見る限りではおよそベスト16に進むような戦いぶりではなかった。
そんな日本代表がどのように戦い、どこが改善されながら勝ち進んだかについては読んでもらうとして、
アクチュアルタイムの観点から興味深い話があったことは書いておく。特にオランダ戦。

とにかく、パス成功率や、ボール奪取エリア、ゾーンへの侵入の仕方など、データとは色々な形になるものだなと感心した。

ポジショニング図はもう少しグラフィカルにして良かったのでは無いか。
データをどう表現するかを考えている会社ならではの、面白くわかりやすいそれこそ図表一枚で全てを伝えるような見せ方を期待していたので、背番号だけの記載で選手名が分からなかったのは不満な点だ。
窮屈な図ではないので、枠外に細かい文字でいいから選手名を記載するだけでいいのに。


また、タイトルはちょっと釣り気味だ。
集中せよという表現から、データに基づいた提言を行う本かと思っていたが、
中盤からは試合の事後分析に終始するのでちょっと期待はずれ。冒頭惜しいと書いたのはこの点。

ある点で小笠原が一番優れているというエピソードがあるのだが、そういう話をもっと読みたかった。
また、データの読み方やどうやってデータを取得するかについてはもっと深堀り出来たのではないかと思う。
軍事技術の民間転用で時速25kmの選手同士がぶつかり合うデータ記録が容易になったなどとさらっと記述があったが、
あっさり次に進んでしまうものだからそこ、そこが面白いのにと臍を噛む思いだ。
守秘義務や企業秘密の部分があるのかもしれないが、次回作があればその辺りの深堀りを期待したい。

充実したマッチレビューを行う方がいて、データを持ち出しながらの解説がとても面白い。
日本代表対ウズベキスタンのレビュー – pal-9999の日記

WIREDでもデータとサッカーの関係について面白い記事があった。
スタムやマルディーニのエピソードは必見で、こういう話がもっと読みたい。
データ革命が、欧州サッカーを「マネーボール化」する(その1) – from 『WIRED』VOL.2 « WIRED.jp 世界最強の「テクノ」ジャーナリズム
データ革命が、欧州サッカーを「マネーボール化」する(その2) – from 『WIRED』VOL.2 « WIRED.jp 世界最強の「テクノ」ジャーナリズム
データ革命が、欧州サッカーを「マネーボール化」する(その3) – from 『WIRED』VOL.2 « WIRED.jp 世界最強の「テクノ」ジャーナリズム

本書の著者によるコラム。こっちのがカジュアルで読みやすいです。
かくしてW杯決勝戦は“荒れた”試合になった:日経ビジネスオンライン

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