坂茂『Voluntary Architects’ Network 建築をつくる。人をつくる。』

東日本大震災の避難所に設置された格子状に仕切られた間仕切りをご覧になった人は多いだろう。
コンテナで出来た仮設集合住宅も話題になった。
冗談みたいな話だが、この仮設集合住宅に住みたいという人が続出したほど素晴らしい住宅だ。

どちらも、建築家である坂茂氏によるものである。

東日本大震災が起こる前から坂氏は災害被災地支援を続けてきた。
今回紹介する本は、それらの記録である。
INAX出版 | Voluntary Architects' Network ── 建築をつくる。人をつくる。ルワンダからハイチへ
Voluntary Architects’ Network ── 建築をつくる。人をつくる。ルワンダからハイチへ
坂茂+慶應義塾大学坂茂研究室 著
定価 2,625円 (税込)
256頁(カラー178頁) 天地 220mm×左右 150mm 並製
ISBN 978-4-87275-163-5
2010年7月15日


序文に氏の姿勢が現れているので少し引用したい。

建築家を始めた頃は、医者や弁護士は人が問題を抱えているときに付き合い、彼らに辛い宣告をしなければならないのに対し、建築家は、例えば、人が家を建てるという人生最高の時につきあい夢を実現するという、とても恵まれた立場にいるので、自分は建築家という職業を選んだ事を喜んでいた。
しかし、仕事を金儲けの為にやっている限られた医者や弁護士を除けば、彼らは常に弱者のために働いている。なんと素敵な仕事なのだろうと建築家になった事に少々後悔の気持ちを持ち始めた。
さらに、近年大きな自然災害が世界中で起こっている。例えば地震。実は地震のみでは人は死なないのである。人が死ぬのは、建築が倒壊するからで、それは建築家の責任でもあるのではないか。つまりそれは、自然災害ではなく人為災害なのである。

本書を読めば分かるが、坂氏は商業的で象徴的な建築を否定しない。
だが、災害で家を失った人々に建築が関わる事で、もう少し快適な環境を提供出来るのではという想いを持つ。

東日本大震災被災地で見られた支援は氏の積み重ねられた活動の結果だ。
支援の形は様々で、どれが良いとか優劣を決めるようなものではないのだけど、
本書に掲載された様々なプロダクトを見て、すごく素敵なものに思えた。


学生時代、新国立劇場を設計した柳澤孝彦先生に学ぶ機会があって、社会性を意識しなさいと言われ続けた。
僕らなりに社会との関わりを考えたが当時は分からずじまいで、でも社会経験を踏むにつれてこういうものかなと気づくことがある。
とにかく一流の建築家は小手先のテクニックを教えるのではなく、建築全体や人生や、大きなものを教えてくれるものだなと思った。

坂氏の論も建築づくりから人づくりへ移って行く。
学生に多くを任せ、導き、育てたからこその支援であることがよくわかる。

僕はこの本を学生に読んでもらいたいと思った。
そして

建築を学んだからといって、必ずしも建築家になるのが良いとは限らない

という氏の言葉は、僕自身が大事にしていきたいと思う。


読み終わる頃、ベランダにやってきた鳥。


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