2009年公開のフランス映画「オーケストラ!」が大好きで残り19分46秒くらいから始まるクライマックスの演奏シーンを何度も繰り返し繰り返し擦り切れるくらい見ています。
まあ今ではビデオテープやディスクメディアでは見るはずないから本当に擦り切れるわきゃあねえんですが。そういえば最近は、巻戻しって言わないんですってね。早戻しって言うらしい。
ともかくクライマックス・演奏シーンは全編を取り込んであるiPadを残り19分46秒に合わせてから洗い物しつつ見たり、晩酌のおともに残り19分46秒に合わせてから流したりと生活の一部に溶け込んだかの如く様々場面で見ておりますが、本編を全部見るのは月に一度もないことを考えるとかなりの中毒症状のようでこの先の俺が心配になります。
12分22秒に渡ってチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が演奏されるシーンは、美しい映像とテンポ良いストーリー展開が後押しして、さらには振り幅をあえて大きくするような演出により、我々を特に僕みたいな狂信者をかつて無い恍惚感へ引き上げていきます。
基本的に、リアルを追い込むような映画を愛して病まない僕ですが、映画ならではの「俺は!これが!表現したいの!」という思いを募らせてこじらせた奇跡を見るのもたまりません。「オーケストラ!」は、映画らしい無茶苦茶な入口から入るリアルっぽいなーと思わせつつ何だよファンタジーじゃん!いうような、なんだこれこんなんで分かるのか。ともかく良い映画なんです。
ざっくりあらすじを話すと、
過去の政治的圧力で全てを失ったロシアはボリショイ劇場の天才指揮者(現掃除夫)が
ふとしたきっかけでパリで演奏する機会をつかむ。
散っていった仲間を再び集め、パリでの演奏を成功させられるのか!
がんばれアンドレイ!
ということでありまして、本筋を様々な背景が彩っていく映画であります。
本筋は強固で、主人公は最初から最後まで筋を貫き通すんです。
で、背景はモノクロなのに極彩色で彩られていることがわかるようなアクの強さを持ちつつ、決して本筋を邪魔しない。余計な御涙頂戴なんかでてこないのが良い。
冷静に考えたら結構深刻だった前振りが、良い意味で深刻さを感じさせないんですね。
だから振り払った時がすごく気持ちいいんだ。
そもそも「オーケストラ!」はロシア人がストーリーを回すんだがこの突き抜けっぷりもなかなかのもんです。
彼ら彼女らのキャラはヤバい。ちょっと目を離すと本当に何するかわからないです。
この映画のお陰で僕のロシア人に対する印象は、
・芸術点では急上昇
・信頼度では大減点
・サーシャは唯一の良心。残りはすべからく反省しろ。
・スラブ民族ですもの
と言ったところです。あとジプシーミュージシャンは最高です。
あとあとフランス人は阿呆だ。
ハリウッド映画と日本風のお涙頂戴に慣れきってしまった僕らは、「一方ロシアは鉛筆を使った」的ロシアの発想と「英語?使うわけない」的フランス人の自己主張がベストミックスされたこの映画に、最初は驚くだろう。
でも切れの良いラストには拍手して、きっともう一度見たいと思うはずだ。
なんせ演奏が素晴らしい。
この映画で知ってヴァイオリン協奏曲をいくつか聞いてみたが、この映画の演奏ほど僕を興奮させることは出来なかった。
本来はもっと長い曲で、いくつかの楽章もあるわけですが、映画では先に申上げたとおり12分22秒(監督公式記録)にアレンジされています。でも主要な要素はきちんと入っていて、しっとりするところはしっとりと、うるわしきところはうるわしく、ぐっわっわわと盛り上がるところは盛り上がる、実にメリハリの利いたアレンジであります。このヴァイオリン協奏曲が良いんだ。
いくつか好きなセンテンスもあって、まあネタバレにもなるが、演奏がかみ合い始めてビッシーと揃う瞬間、ラストの高速ヴァイオリンと支えるオーケストラ、アンヌマリー(初めて出したが主演女優でヴァイオリニスト)とレア(昔のヴァイオリニスト)が重なるシーンのあたりが好きですね。
更に言えば、このアンヌマリーが美しい。
レ・ミゼラブルでアンハサウェイがベストだと断言しましたがアンヌマリー役のメラニーロランをダブルベストに据えたいと、ここに宣言します。
この人はシーンによってKAWAIIからBEAUTIFULまで自在に自分を表現するわけですが、まあ顔も好みなんだが、演奏シーンのりりしさと若さと自信と不安が入り交じる表情はなんとも堪らないものがあります。グッドです。美人だし。
この映画のクライマックスについても触れなければならない。
様々な回想が入り演奏の邪魔だと感じる方もいるかもしれないが、何一つ不要なものは無かったと思う。
回想のおかげでオーケストラの現在過去未来が総括され、全てが収束してあの素晴らしいラストシーンに繋がるのだから。
あんな何十年も演奏していないようなオーケストラがまともな演奏出来る訳無いじゃんっていう批判には断固としてそれは違うねと言える。
アンドレイは頭の中でずっとずっと演奏してきた。
彼により徹底的に鍛えられていた彼が信頼するオケのメンバーは、最後のピースが埋まった時についに往年の輝きを取り戻す。
ぶれなかった本筋はこの奇跡をすなおに受け入れるためにあったのだから、これでいいんですよ。
指揮者はコンサートが始まるまでに9割仕事を終えているなんて話がありますが、まさにその通りの仕事をアンドレイはやってのけたのです。
美しい映像も実に見所一杯です。
多角形ボケを要所要所で駆使する映像表現は艶艶で、アンヌマリーの美しさ倍増であります。
オーケストラ演奏もとても自然に、いい距離感で撮影されています。
ありえねえよってシーンがいくつもありますが、そんなもん最後で全部吹き飛んでしまう何度も何度も映像付きで見返したくなる不朽の名作。
オーケストラ!
なんで今おすすめするのか全くわかりませんが、おすすめです。是非ご鑑賞下さい!ブラボー!