『監督ザッケローニの本質』『観察眼』に続き読む現代サッカー本シリーズ。
休肝日のわびしさを紛らわせようと開いたら面白くて一気に読んでしまった。
サッカー選手の正しい売り方 – 株式会社カンゼン
著者:小澤 一郎 著
ジャンル:スポーツ > サッカー
出版年月日:2012/02/09
ISBN:9784862551030
判型・ページ数:4-6・272ページ
定価:本体1,600円+税
日本サッカー界の移籍ルールが2009年より大きく変わった。
陳腐な言い方になるが、ガラパゴスだったルールがグローバル化した。
日本を代表する選手達が次々と移籍金0円で海外へ出て行く現状を足がかりに、
関係者のインタビューや取材結果から「移籍」ルールの解説、問題点や提言を一気に構成している。
世界の流儀に取り込まれて同属概念が通用しなくなる日本というのはどの業界でも変わらない。
ルールに翻弄される者、冷静に見極める者、チャンスを見いだす者、それぞれのリアルな言葉は迫力がある。
2012年2月9日に出版されたばかりで移籍関連のタイムリーな事例が多く含まれるが、
記憶に新しい日本代表岡崎のシュツットガルト移籍時のこじれが各者の視点で語られるのは特に良かった。
※岡崎移籍問題については以下
岡崎慎司選手のシュツットガルト移籍に関する経緯について|清水エスパルス – 公式WEBサイト
岡崎慎司移籍金問題 清水×シュツットガルト – 日本代表.jp
岡崎移籍問題とゼロ円移籍とJリーグの究極目標: 武藤文雄のサッカー講釈
僕は素直に行かせてやれよ派だったが、本書を読んだ今は誰が正しいかわからんね。というところだ。
全体として、日本側(このケースでは清水エスパルス)が世界標準ルールに乗り遅れた交渉戦略をとったことが要因と言ってもよさそうだが、それで片付けるのも何かもどかしい。著者も何度も書いているが、日本人の情・なあなあの部分が契約社会に対応出来ていない。やっぱり過渡期の食い違いなんだろうな。
とはいえ現行ルールを引っ張る欧州にしても、ボスマン判決からルールを変えていないなんてことはない。
常に試行錯誤が続いているし、例えば最近ではファイナンシャルフェアプレー制度導入がある。
時代にあった形で選手移籍に絡む様々なルールが定められていて、その中で各々が戦略を立て、クラブ経営を行っているのだ。
近い将来起こりうることを想像するだけでも、ボスマン判決の根本であるEUという枠組みがギリシャ危機をきっかけに崩壊すれば、EU加盟国内は移籍自由のルールが大変動するだろう。ギリシャ単体がEUから脱退したとすれば、ギリシャ国籍の選手はEU枠からはみ出し、選手の市場価値が暴落するだろう。
サッカーのこととはいえ、基本的な考えは雇用契約であるから、法の枠組みからは逃げられない。
Jリーグにとって移籍ルールが大変動して引き起こった過渡期の一番濃い時期に、チーム、選手、代理人それぞれの立場をまとめた本が出たというのはナイスタイミングである。
また、筆者の問題提起も非常に現実的で、対案やあるべき方向が示されている。
問題提起が鋭すぎて総批判のように見る方もいるかもしれないが、よくよく現実を噛み砕いて鋭く突き付ける提起であって、批判の為の批判ではないのが良い。
当然だがこれは現時点の理想型じゃないかと思える事例も登場する。
本書やザッケローニの本質を読むとわかるのだが、
移籍については不確定要素が多すぎて、関係者がいくら努力しても例えばオーナーの気まぐれで全てが一変すること等もあり、ケースバイケースに行き着いてしまうから、断言は出来ないけども。
どの業界でも同じだけど成功例をただ真似ただけでは駄目ですよね。
願わくば全ての選手達に幸福な移籍と就労環境をと思うが、
成功も失敗も全て含んだ悲喜交々がサッカーをより面白くするのは言うまでも無いわけでして、イチファンとしては酒が美味いのであります。
こちらの記事は小澤氏の有料メルマガからの寄稿で、『サッカー選手の正しい売り方』にも少し掲載されている若手Jリーガーの現実について書かれている。コンパクトにまとまっているので、本書の試読感覚でご覧頂きたい。
【特別寄稿】「ビニール傘化」するJリーガーをなくすために(小澤一郎) – Soccer Journal 編集部 – Soccer Journal(サッカージャーナル) – livedoor スポーツ
あとはチームマネジメント側と代理人側の本を読めばサッカー界(の一面)を俯瞰しきれるのかなと思うが、HONZのせいで新しい本を加えるのが大変ですよ。