ヘイ、プレスト!
スエズ運河なんてデカいもの消せるわけないだろう!と思ったあなたでも楽しく読める良書。
マジックを口で説明するのが難しいように、
本書で登場する様々なマジックを理解するのにも少しばかりの想像力が必要だが、
分量のある本なので、最初の方は多少イメージがわかなくてもぐんぐん進んで良い。
『マジックギャング』が周りを認めさせていくのと同時に、
読み進むあなたも『マジックギャング』のアイデアを理解出来るようになる。
情報面のサポートはぬかりなく、戦線地図や古い写真などが収録されていたのは好印象だ。
戦場のマジシャンというと、我が愛読書にして人生の指針とも言える
スペースオペラ『銀河英雄伝説』を思い出さずにはいられない。
人類なら必ず読んでいるはずの全10巻外伝4巻の超大名作品なわけですが、
自由惑星同盟側の主人公”魔術師”ヤン・ウェンリーは、宇宙と地球という舞台こそ違え、
『マジックギャング』と同様に戦場で華麗なマジックを披露して敵方を翻弄し続けた。
まあフィクション、ノンフィクションも違うな。
あとヤンはしぶしぶ先頭で戦ったけど、マジックギャングはどちらかと言えばゲリラ的だった。
ヤンの活躍たるやいくらなんでも都合良すぎるくらいのものであったが、
説得力ある戦術というか魔術で戦う様は色々な示唆に富んでいた。
入念で周到な立案と、身につけるための鍛錬はまあ、魔術以外にも共通するようなもの。
対象の本質を見極めてどこを細工すれば「隠せるのか」ということを、本作は存分に語る。
さらに言えば「隠す」とは何かまで突き詰めていく。
さて、本作における主人公らの部隊『マジックギャング』の活躍は全てが真実とは言えないようだ。
マジックギャングすごいなあとWikipediaなどをざっと流し読みすると、
彼らのアイデアが戦局を左右しまくっていたというのは言い過ぎで
戦局が左右される一要因であった、或いは事例によっては架空のものかも、らしい。
主人公であるマジシャン、ジャスパー・マスケリンの自伝等に基づいて構成されている本書だが、
その自伝が誇張やでっちあげがされた可能性があるそうで。
ま、マジシャンの自伝であればさもありなんというか、
死してなお人の目を欺くのだからすごいと思えば良いのだ。
スエズ運河はどうやって「消える」のかは読んでのお楽しみ。
スエズ運河以外にも色んな物が消えたり現れたりするけれど、
スエズ運河を消せって言うタイトルはとってもいいね。
タイトル買いしたくなる情緒がある。
ということで今すぐ地元の本屋に駆け込んで買え。本屋が消えたら大変だからな(どやっ)。